グランディングパートナーズ|Grounding Partners

中小企業診断士DHが運営するブログです。「仕事」と「幸福」を主軸に、どうすれば経営者と従業員の方が幸せに、かつ生産性を高めて働くことができるかについて、その知識や知見を数々の文献を参照しながらご紹介していきます。

コストをかけずに従業員のやる気を高める方法 内発的動機づけの観点から

今日は動機付けについてお話ししたいと思います。

企業の皆様にとって、従業員の方々が自律的に、かつ生き生きと働いてほしいかと聞かれれば、おそらくほとんどの方がそのとおりだとお答えになるでしょう。

しかし、現実には指示待ち状態のように受け身の姿勢になっていたり、毎日辛そうな表情を浮かべながら黙々と業務を行なっている従業員の方もいらっしゃることかと思います。

そのような状況において、従業員の方がやる気を出して自律的に仕事をしてもらうにはどのようにすればよいでしょう。

一般的には、福利厚生を充実させたり、従業員のパフォーマンスによって給与査定するといった対策がなされることが多いように思います。

ですが、従業員のやる気という観点においては、上記のような対策以外で、より有効な方法があるのではないかということが心理学の研究において示唆されています。

それは、金銭の報酬といった外部的な報酬だけに頼るのではなく、従業員の内的な感情に働きかけることでやる気を高めることができるのではないか、という考えに根ざしています。

 

今回は、心理学の観点から従業員のやる気が高まるメカニズムについて解説しつつ、どうすればそのメカニズムを実務に生かせるかについてお話ししたいと思います。

参考文献は『人を伸ばす力 内発と自律のすすめ』です。

 

 

外発的動機づけと内発的動機づけ

著書において、従業員のやる気は金銭的な報酬によって生じるのではなく、仕事そのものが自分にとって報酬になっている状態のときに高まります。端的にいうと、従業員が仕事が楽しいと感じていたときにやる気が高まります

非常にあたりまえの話なのですが、意外と盲点になりがちで、「仕事は辛いものだ」という固定観念のもと、金銭的な報酬などのモチベーションアップの手法をとることが多いのではないかと個人的には思います。

 

従業員が仕事を楽しいと感じている心理状態を理解するには、次の内発的動機づけの概念が鍵となります。

内発的動機づけとは、活動することそれ自体がその活動の目的であるような行為の過程、つまり、活動それ自体に内在する報酬のために行う行為の過程を意味する。 

内発的動機づけとは、活動それ自体に完全に没頭している心理的な状態であって、(金を稼ぐとか絵を完成させるというような)何かの目的に到達することとは無関係なのである。 

つまり、内発的動機づけが高まると、仕事そのものに夢中になれるため、自然と創造性を発揮しながら主体的に働いてもらうことが可能となります。

 

これに対して金銭といった外部的な報酬によってやる気を高めるアプローチを外発的動機づけといいます。

著書では、外発的動機づけに頼りすぎることを推奨していません。

実験結果が示しているように、行動が金銭という報酬を得るための道具になってしまうと、つまり人が報酬を得ることを目的として行動するようになると、その行動が続くのは報酬が与えられているあいだだけになる。 

よって、従業員のパフォーマンスによって給与査定を行うと、給与が上がっている分には問題ないですが、給与が下がってしまったときの悪影響は甚大です。

もちろん、雇用契約ですので金銭の報酬は必要ですが、給与査定を頻繁に行う等、従業員に対して外部的な報酬を意識させるのはあまり有効ではないといえるでしょう。

 

内発的動機づけを高めるための方法

これまで、従業員のやる気を高めるためには、金銭的な報酬よりも内発的動機づけを高めることが有効であることをお話ししてきました。では、従業員の内発的動機づけを高めるにはどうすればよいでしょう。

その方法として、著書では次の3点を挙げています。

  • 管理職が従業員の自律性を支援する姿勢を身につける
  • 従業員に対して仕事の選択権を与える
  • 仕事の目標設定を管理職だけで行うのではなく、従業員本人にも関与させる

 

自律性を支援する姿勢を身につける

最初の「管理職が従業員の自律性を支援する姿勢を身につける」が最も重要で、これが機能しないと次の2つの手段も有効でなくなってしまいます。

自律性の支援について著書の内容を参照します。

自律性の支援は、あなたが他者、とりわけ自分より下の立場にいる人に対して取り得る態度であり、その人たちとの相互作用のあらゆる面に現れる。自律性を支援するには、彼らの視点をとれること、すなわち、彼らが見ているように世界を見ることが必要である。そうすることで、彼らの要求や行動の理由が理解できる。簡単に言えば、管理職として自律性を支援するというのは、会社で、団体で、工場で、あなたのもので働く人々の気持ちを把握することからはじまる。 

自律性を支援する管理職の元で働く従業員は、会社をより信頼し、給料や福利厚生のことにとらわれずに、より高いレベルの満足とやる気を示していた。 

管理職の方が部下の立場や気持ちに理解を示し、自律性を支援するというマインドセットをもつことで、次に述べる2点(選択権を与える・目標設定に参加させる)が従業員の自律性を支援するための具体的な方法として機能していくことになります。 

 

仕事の選択権を与える

内発的動機づけを下げてしまう要因として、著書では「統制」を挙げています。つまり、人は統制されている(誰かからコントロールされている)と感じると、内発的動機づけが低下してしまうというのです。

しかしながら、企業において統制は必要不可欠であり、これがないと組織としての秩序を維持することができなくなってしまいます。

このバランスを取るために、著書では「従業員に対して仕事の選択権を与える」べきだと述べます。

研究では、選択が人々の内発的動機づけを高めることも明らかにされている。何を行うかの決定に参加すると、参加しないときよりも仕事に動機づけられて集中し、その結果、高い成果があがるのである。

一方で、仕事においてすべての選択権を従業員に与えることは実務的に困難です。この問題に対する答えとしては、「仕事の内容そのもの」ではなく「仕事のやり方」に選択権を与えるべきだと述べています。

仕事のやり方を選択 させることは、仕事の内容について選択させるよりも容易である。管理職のさらに上にいる上司が仕事の内容を指示する場合でさえ、管理職は、部下にどのように仕事を進めるかを決めさせることができる。

つまり、仕事の成果物を明確にした上で、仕事の進め方(作業の順番等の決定や業務に必要な経営資源へのアクセス)を従業員自身に決めさせることで内発的動機づけを高めることが可能となります。

 

目標設定に従業員本人を関与させる

どのような種類の仕事においても、「〇〇を達成する」という文脈においては、明示的であれ黙示的であれ、なんらかの目標が存在すると思います。この目標が内発的動機づけの観点から効果をあげるための留意点として、著書では次のとおり述べられています。

より効果をあげるためには、目標を個々人のレベルに合わせること、つまり、目標を目指す人に適したものにすることが必要であるし、最適な挑戦となるよう設定する必要がある。やさしすぎると飽きてやる気を無くしてしまうだろうし、むずかしすぎると不安感や能率の悪さにつながる。

個々人のレベルに合っていない目標としては、たとえば、優秀なプレイヤーだった人が管理職に昇格した場合において、その管理職の人が部下に対して自分と同じ成果や能力を要求するあまり、部下の人がついていけずに体調を崩してしまうといったことが挙げられるかと思います。

よって、自律性を支援するのであれば、管理職の人は部下のそれぞれの視点に合わせて目標設定を行うことが求められます。ここで、部下を目標設定に関与させることが有効となるのです。

最適な目標を設定する最も良い方法は、彼らを目標設定の過程にかかわらせることである。自律性を支援し、目標の設定に積極的な役割を果させることで、仕事や課題に専念できる最適な目標が得られる。 

部下自身が目標設定に関与することで、その目標を達成する意欲が高まり、より自律的に仕事に取り組むようになるでしょう。管理職の方は、定期的にその目標を達成できるよう支援し、建設的なフィードバックを与えていくことで 、やる気を高める好循環を生み出すことが可能となります。

 

 

今回は、内発的動機付けという観点から従業員のやる気を高めるための方法について検討してきました。

いずれも金銭的な報酬とは関係がないため、企業の皆様はほとんどコストをかけることなく実践できる内容だったのではないかと思います。

確かに、管理職の方々には「自律性を支援する」という慣れない役回りをご担当いただくことにはなりますが、上記の内容を実践いただくことで、部下の方々のやる気が高まることを実感いただけるのではないかと思います。

よろしければ、是非皆様の職場でも取り入れてみてください。

 

[参考文献]

エドワード・L・デシ,リチャード・フラスト 著,桜井茂男 監訳『人を伸ばす力 内発と自律のすすめ』