相手のちょっとしたイライラがもたらす「仕返し」のリスク
唐突な質問ですが、皆さんは「仕返し」をしたことがありますか?
例えば、今まであなたがずっと欲しいと思っていた洋服を通販で購入したとしましょう。あなたは手元に届いた商品の包装をワクワクしながら開封します。ところが、包まれていたのは、糸のほつれやシミなどが目立つ粗悪品なのでした。
あなたは怒り心頭に通販会社のコールセンターに電話し返品を要求しますが、窓口の人は「輸送の過程で商品が破損した」などと「自分は悪くない」の姿勢の一点張りで、まともに取り合ってもらえません。
あなたの怒りはおさまるどころかさらにヒートアップし、コールセンターとの長電話という泥沼にハマってしまいます。なかには、商品やコールセンターに対する批判レビューをネットに書き込む方もいらっしゃるでしょう。
こういったトラブルは、通販を利用する方であれば一度や二度くらいはご経験されたことがあるのではないでしょうか。
合理的に考えるのであれば、手元に届いた粗悪品はあなたにとって損失であり、損失回避を目的に販売元に交渉をかけるのは理解できますが、すでに解決困難であることがわかっているにも関わらず交渉を続けるのは、さらなる損失拡大をもたらす結果にしかなりません。
私たちが損失が拡大することを理解しているにも関わらず、交渉を続けようとするのは、その背景として、私たちに「不公平な扱いをする相手に仕返ししたい」という感情があることが見え隠れします。
実は、この感情は私たちが意識していないところでも働いており、上記のように明らかに怒りが湧いてくるシーンだけでなく、ちょっとイライラした気持ちになるだけでも、相手に「仕返し」したくなるようなのです。
今回は、そのようなちょっとしたイライラがもたらす「仕返し」を研究した面白い実験がありましたのでご紹介します。
参考文献は『不合理だからうまくいく 行動経済学で「人を動かす」』です。
この実験では、実験協力者の1名の学生が、コーヒーショップに来店するお客さんに対して簡単な課題をこなすよう依頼します。その課題に対する報酬は5ドルで、お客さんが課題をこなした後に学生から支払われます。
ここでお客さんのグループを2つに分けます、ひとつは普通に課題の内容を説明したグループ(「いらだちなし」条件)で、もうひとつは、課題を説明している最中に学生の携帯電話が鳴り、学生が電話に出ることで説明を一時的中断するグループ(「いらだち」条件)です。
両グループともに、課題が終わった後に報酬を支払いますが、学生は間違って5ドルよりも多い金額をお客さんに渡してしまいます。
この実験のミソは、お金を多くもらったお客さんのうち、ちょっとしたイライラを与えられたお客さんはどれだけお金をネコババ(仕返し)するかということです。
実験結果は驚くことに、「いらだちなし」条件のグループの45%が多く受け取った分を返金したのに対して、「いらだち」条件のグループは13%にとどまりました。
(「いらだちなし」でも45%しか返してくれないのは悲しい現実ではありますが)
この実験の結果からもわかるとおり、ちょっとしたイライラでも人は無意識のうちに仕返しをしてしまうようです。
私が勤めている会社の上司も、よく会議中に携帯電話が鳴っては電話に出てしまうので、私以外にもイライラしている人は多いのではないかと思います。
(どこかで仕返しされないか心配ではありますが)
携帯電話に限らず、会話中にテレビに見入ってしまったりなど、意図せず相手との会話を中断してしまうことは日常的にもよく見受けられることかと思います。
ですが、このようなちょっとしたことの積み重ねが、相手との信頼関係を壊してしまう(さらに、思わぬところで仕返しされる)可能性があることも気に留めておく必要がありそうです。
もし、相手にイライラを与えてしまったと気づいたときは、誠意を持って謝りましょう。
誠意を持って謝ることで、仕返しされるリスクは低減できます。
先程の実験でも、相手にいらだちを与えた後、報酬を渡す直前に「自分は電話に出るべきではなかった」と謝った場合、返金額は「いらだちなし」条件と同程度まで増えたそうです。
とはいっても、なるべくであれば相手にイライラを与えないに越したことはありませんね。
[参考文献]
ダン・アリエリー 著,櫻井祐子 訳『不合理だからうまくいく 行動経済学で「人を動かす」』