グランディングパートナーズ|Grounding Partners

中小企業診断士DHが運営するブログです。「仕事」と「幸福」を主軸に、どうすれば経営者と従業員の方が幸せに、かつ生産性を高めて働くことができるかについて、その知識や知見を数々の文献を参照しながらご紹介していきます。

「思っていたのとなんか違う」を回避し、未来を適切に予測する方法

今回は人間が未来を読み違える理由とその対策についてお話ししたいと思います。

未来を読み違える例は、日常的なものからビジネスに関するものまで様々です。

日常的なものですと、「絶対に楽しいに違いない!」と思って友達と遊びに出かけても、実際はそれほどでもないと感じたり、「これは自分に似合う!」とワクワクしながら購入した洋服を実際はそれほど着用しなかったり……

ビジネスに関するものですと、「この業務改善ツールを導入することで当社の業務が劇的に効率化できるに違いない!」と思って実行したにもかかわらず、実際にはそのツールが社内に浸透せず、余計なコストだけが嵩んでしまうなど、例をあげればきりがないほどです。

 

実は、このような未来を読み違えてしまう現象は、人間の脳の仕組みに由来するものであることが示唆されています。

今回は、この人間の脳の仕組みについて解説するとともに、どうすれば未来をより適切に把握することができるかについてお話ししたいと思います。

参考文献は『明日の幸せを科学する』です。

 

 

未来を読み違える理由の説明の前段階として、まず脳の「穴埋め」の機能について説明したいと思います。次の引用文をお読みいただいたら、そのまま引用文中のクイズにも取り組んでみてください。

出来事のあとで得た情報が出来事の記憶を改変することは、さまざまな実験室や実地の環境で何度も繰り返し再現され、ほとんどの科学者はつぎの二点を信じるようになっている。一、記憶行為には、保存されなかった細部の「穴埋め」が必要である。二、穴埋めは苦もなく瞬時に行われるため、われわれはたいてい、その穴埋め作業に気づかない。穴埋め現象はとても強力で、だまされるものかと思っていても阻止できない。ためしに、つぎの単語リストを読んで、読み終えたらすぐにリストを手で隠してみてほしい。あなたをだまして見せよう。

 

 ベッド  起きる   いびき

 休息   いねむり  昼寝

 目覚め  毛布    平安

 疲れ   うたた寝  あくび

 夢    まどろみ  睡魔

 

 ここからが引っかけだ。つぎの単語のうち、リストにないものはどれか? ベッド、うたた寝、眠る、ガソリン

いかがでしょう? 正解は「ガソリン」ですが、実はもうひとつあります。もう一度リストをよく見てみてください。そうです、「眠る」はリストのどこにもありません。

たいていの人は、リストに「ガソリン」がないことはわかっていても、「眠る」はあったと誤って記憶している。リストの単語がどれも密接に関連しているため、あなたの脳は、読んだ単語を一つ一つ保存するかわりに、要点だけ(「眠りに関連する単語の集まりだな」)を保存したのだ。

これが脳の「穴埋め」現象です。

脳の穴埋めは上記のような過去の記憶を呼び起こす際に発生するのはもちろん、未来を予測するときにも働きます。

たとえば、ここで目を閉じて、五・五リットルV型一二気筒三六バルブのツインターボチャージャー付エンジンを搭載した銀のメルセデスベンツSL600ロードスターを乗り回している自分の姿を、まる二時間想像しようと思えばできるだろう。フロントグリルの曲線、フロントガラスの傾斜、黒革張りの内装の新しいにおい。しかし、たとえ何時間かけて想像したとしても、心に浮かべたイメージをじっくり調べてナンバープレートを読みあげてくれと言われたら、その点は想像しなかったと認めざるをえないはずだ。

友達と遊びに行くのに「もしかしたらつまらないことが起こるかもしれない」とは考えないですよね(そもそも、最初からつまらないと思っているのであれば、遊びに行くことなどないのかもしれませんが)。

われわれは、自分が想像した未来の出来事の細部を、実際に起きるものとして扱う傾向があるのと同様に、自分が想像しなかった未来の出来事の細部を実際には起こらないものとして扱うという、同じくやっかいな傾向がある。

これが、私たちが未来を読み違えてしまう重要な理由の一つです(著書では、他の理由についても詳しく解説されていますのでよければ著書の内容もチェックしてみてください)。

 

洋服の例であれば、自分に似合うと思って買ったはいいものの、自宅の箪笥を広げてみるとその洋服に合う組み合わせが見つからず、結果としてお蔵入りしてしまったり、あまりにも季節外れのため着ることができなかったり、といったことがあるかもしれません。

 

私も少し前に、比較的有名なブランドの半袖Tシャツを,ちょうどセールでお買い得だったので衝動買いしたのですが、ここのところすっかり寒くなってしまって着ることができず、「あ〜、失敗したな」と後悔していたりします(セールってよくできていますよね)。

 

では、私たちはどのようにすれば、 適切に未来を想像し、上記のような失敗を回避することができるでしょうか?

著書では、他者を頼るべきだと述べます。

自分自身の未来の感情を予測する一つの方法は、自分が予測している出来事を今まさに経験している人を探して、どんな気持ちかを尋ねることだ。

 

ビジネスにおいて、業務改善ツールの導入を検討しているのであれば、他社の評判などに目を通しておいた方がよいでしょう。注意すべき点としては、前向きに導入を検討している場合は良い評判ばかりに目が行きがちになるため、必ず悪かった点の内容を確認して、客観性を維持するようにしましょう。

もし,知り合いにそのツールを導入したことのある人がいれば、うまくいった点と合わせて、うまくいかなかった点について確認しておくとよいでしょう。

 

それでは、もし他者を頼るのが難しい状況の場合はどうすればよいでしょう?

洋服を一人で買いに行っているのであれば、物理的に他者を頼るのは不可能です。

もし、店員に質問したなら、当然ながら「お似合いですよ」と言われて買うしかなくなってしまうでしょう。

著書では、未来を予測するための対策については、上記の引用の内容以上については述べられていないため、ここからは私なりの解釈となりますが、もし物理的に他者を頼るのが難しい場合は、自分のなかに他者をつくりだすことが有効なのではないかと思います。

要するに、自分のことを大切な友人だと思ってアドバイスしてくれる人物を自分のなかにもつということです。

 

皆さんが洋服を衝動買いしようとしているときは、ご自身の友人のアドバイスに耳を傾けてみましょう。「いつ着るの?」「どうやって着るの?」と質問されたら、もしかしたら、皆さんも少し冷静に考えて購入できるようになるかもしれません。

 

 

[参考文献]

ダニエル・ギルバート 著,熊谷淳子 訳『明日の幸せを科学する』