なぜ意思決定を間違えるのか?
今回は意思決定についてお話ししたいと思います。
よく採用の現場で「この人は是非採用したい」と思って実際に採用してみたものの、思うような仕事をしてくれない、といったことはありませんでしょうか。
他にも、長期的なプロジェクトの予算を決める際に「これで大丈夫だ!」と思ったにも関わらず、実際に始まってみると思っていたより費用が嵩んでしまったりすることはありませんか?
実は、これらは全てバイアス(認知の歪み)によるものです。今回は、このバイアスがどのようなメカニズムで発生し、またどのようにすれば回避することができるかを簡単に触れていきたいと思います。
今回の参考文献は『ファスト&スロー あなたの意識はどのように決まるか』です
直感によるエラー
早速ですが次の問題を10秒以内に解いてみてください。
バットとボールは合わせて一ドル一〇セントです。
バットはボールより一ドル高いです。
では、ボールはいくらでしょう?
10秒という短い時間ですと、皆さんほぼ直感で答えられたのではないかと思います。
答えはいくらでしょう? 10セントですか?
正しい答えは5セントです。
ボールの金額をxとして、1次方程式を組んでみましょう。
100 + x + x = 110
∴ x = 5
10秒以内という条件下で、1次方程式を組める方はほとんどいらっしゃらないでしょう。
このように、直感によるエラーは至る所で発生しています。
採用の現場では直感はあてにならない
冒頭の採用の話ですと、面接官が候補者に好感を持った場合、これだけで面接官は履歴書や職務経歴書の中から候補者のグッドポイントを探し出そうとします。
これは「ハロー効果」と言われるバイアスの一種です。
もしあなたが大統領の政治手法を好ましく思っているとしたら、大統領の容姿や声も好きである可能性が高い。このように、ある人のすべてを、自分の目で確かめてもいないことまで含めて好ましく思う(または全部を嫌いになる)傾向は、ハロー効果(Halo effect)として知られる。後光効果と言う。
よって面接官が「この候補者はちゃんとした身なりをしているし、こちらが聞いていることにきちんと受け答えできていてよい」だとか「この候補者は自分と趣味が一緒で馬があう」といった直感的な理由で採用を決めようとしている場合は、上記のバットとボールのようなエラーが発生する可能性が極めて高いと言えます。
このようなエラーの回避策として、著書では次のように述べられています。
あなたが真剣に最高の人材を雇いたいと考えているなら、やるべきことはこうだ。まず、仕事で必須の適正(技術的な理解力、社交性、信頼性など)をいくつか決める。欲張ってはいけない。六項目がちょうどよい。あなたが選ぶ特性は、できるだけ独立したものであることが望ましい。また、いくつかの事実確認質問によって、その特性を洗い出せるようなものがよい。次に、各項目に打ち手質問リストを作成し、採点方法を考える。五段階でもよいし、「その傾向が強い、弱い」といった評価方式でもよい。
各項目を採点することで定量的に評価し、バイアスを取り除いていきます。注意すべき点は、気に入った候補者の点数が低かったとしても、そちらを選んではいけないということです。
長期的な計画を立てる際に留意すべきこと
ビジネスの現場では、必ず期首に事業計画とそれに紐づく予算を作成すると思います。営業部門であれば売上の計画になりますし、管理部門であればコストの計画になるでしょう。
もちろん、適切な計画を立てて当初予定どおり計画を達成される企業もたくさんいらっしゃいます。
他方で、無理な売上の計画を立てたあまりに営業部員が疲弊してしまって、挙げ句の果てには粉飾決算まがいなことをしてしまう企業もいたりするのも事実です。
なぜこのようなことが起こってしまうのでしょう。
理由は、人間は長期的な事柄については楽観的に考える傾向があるからです。楽観的に考えるということは、「もしかしたらうまくいかないのではないか」と悲観的に考えることがありません。よって、上司からよく見られたいだとか、決裁を確実に取りたいといった理由だけで直感的に計画を作成してしまうのです。
著書の中では、これを「計画の錯誤」と呼んでいます。
この「計画の錯誤」を回避するためには、組織として意図的に失敗のシナリオを考えさえることが有効です。
おそらく組織のほうが、個人よりも楽観主義をうまく抑えられるだろう。そのために一番よいと考えられるのは、(中略)ゲーリー・クラインが考え出した方法である。やり方は簡単で、何か重要な決定に立ち至ったとき、まだそれを正式に公表しないうちに、その決定をよく知っている人たちに集まってもらう。そして、「いまが一年後だと想像してください。私たちは、先ほど決めた計画を実行しました。すると大失敗に終わりました。どんなふうに失敗したのか、五〜一〇分でその経緯を簡単にまとめてください」と頼む。クラインはこの方法を「死亡前死因分析(premortem)」と名付けている。
いかがでしたでしょうか。以上の内容はバイアスのほんの一例です。
注意すべき点としては、直感がときとして重大なエラーに繋がる可能性がある点です。よって、大きな決断をするときは「本当に大丈夫だろうか?」「もしかしたら失敗しないだろうか」など一度立ち止まって考えることを習慣にしていただくとよいのではないかと思います。
[参考文献]
ダニエル・カーネマン 著, 村井章子 訳『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか 上・下』